酒蔵見学レポート
SAKE TOUR REPORT

[酒蔵見学レポート]  日本酒学講師と行く酒蔵訪問ツアー vol.4 
奈良県奈良市 (1)正暦寺 (2)奈良豊澤酒造 (3)ピッツァとペアリングランチ
開催日:2024年6月1日(土)

今回開催のツアーへは、日本酒ナビゲーターの方を中心に13名にご参加いただきました。

ツアー内容は盛りだくさんで、日本酒の歴史、製造方法、テイスティングセミナー、お食事とのペアリングと、頭も身体も心もフルに使ってお楽しみをいただく内容でした。


[1] 清酒発祥の地「菩提泉 正暦寺」参拝

JR奈良駅に集合して、ハイヤータクシーで30分程移動。山深いところにお寺があり、新緑に包まれるような美しい景観の中で参拝を楽しみました。室町時代に僧侶によって清酒造りの礎となる「菩提酛仕込み」という技術が開発され、さらには火入れの技術や、段仕込み、濾したお酒(すみさけ)が「僧房酒」として高い名声を誇りました。

ご本尊は参拝できる期間ではなかったため、福寿院客殿にて愛らしい孔雀の上にお座りの孔雀明王像様を参拝。美しい庭園を見学しながら、ご住職の大原弘信さんより正暦寺の建立時のお話しや歴史的な役割、そして「菩提酛」を文献から復活された当時の秘話などをお聞かせいただきました。大原御住職は今回特別にこの訪問のためにお出ましくださいました。大変有難く貴重な時間でございました。この日はお天気もよく、自然に囲まれた中で清々しく過ごしました。


[2] 奈良豊澤酒造 酒蔵見学(奈良市)

正暦寺からほど近いところに「豊祝」ブランドで有名な奈良豊澤酒造さんがあり訪問しました。車移動で15分程。土曜日は休業日ですが、工場長の林さんが特別にご案内くださいました。日本酒を熱心に勉強されている方々を是非ともご案内したいと仰ってくださってのことでした。お言葉に甘えて、訪問受け入れをお願いしました。本当に有難いことでございました。


初めにセミナールームにて、奈良酒や酒蔵の歴史についてのお話しがありました。豊澤酒造さんは精力的に酒造と販売の両方に取り組まれ、昭和時代に積極的にM&Aをされていたお話しも興味深かったです。(非公認ですが)世の中に「立ち飲み屋さん」が誕生したのは豊澤酒造さんのアイデアだったそうで、一号店は大阪の森之宮あたりが発祥とのこと。今でも近鉄奈良駅や難波駅など主要な駅の構内に、「豊祝」の立ち飲み店がある理由が分かりました。


次に、酒造場内の見学に移り、お酒造りの一連の工程を一つ一つ丁寧にご説明いただきました。米袋の到着から、洗米、浸漬、蒸米機(甑と連続式蒸米器があるのは珍しいです)、そして、特別に麹室の内部にも入室をご許可いただきました。室内は広く、杉の木の良い香りが漂っていました。醪タンクの中も見せていただき、大きなホーロータンクの上から内部を見せていただきました。


その次に、瓶貯蔵庫のマイナス7度の冷蔵倉庫の中にも入らせていただきました。身体が瞬時にして固まるほど冷え冷えの冷蔵庫内でお酒の貯蔵管理をされていて、お酒の保管温度の重要さを改めて認識しました。豊澤酒造さんのお酒が美味しい理由なのだと...。酒蔵さんでどんなに大切に温度管理を行っても、酒蔵さんを出た後の温度管理で大きくお酒の品質は変わってしまいます。


最後に「ドメーヌ酒」となる原料米「ヒノヒカリ」の田んぼも見学し、原料米への拘りやお米が生まれる地元奈良のテロワールを感じることができました。


再びセミナールームへ戻り、特別酒を含む8種類をセミナー形式で試飲しました。高級酒の斗瓶取り大吟醸の熟成酒と新酒の飲み比べ、播州愛山と山田錦の飲み比べや、特別純米酒からココナッツ様の香りを感じたり。奈良県の新酵母で正暦寺境内にて採取された「奈良うるはし酵母」や、大神神社のササユリから採取された「山乃かみ酵母」を使ったお酒を試飲したりと、とても興味深く奈良酒の独特の文化について勉強させていただきました。


そして、”超”特別に「??酒」として、教材サンプル酒をご用意くださっていました。それは「火落ちした状態」にあるお酒の試飲体験でした。日本酒を学問的に勉強している人たちに特別に不良状態にあるお酒を造って、教材としてお出しいただきました。これは直に教えていただかないと知り得ない香りや味わいをしていました。消費者がお酒を購入した後も保管温度がいかに大切であるかを学ぶ機会になりました。


お酒もさることながら、豊澤酒造さん製造の奈良名物の「奈良漬け」は皆が大絶賛!! 売店で完売するほど(笑)お買い物もさせていただき、帰り際には豊祝のロゴ入りお猪口と「貴仙寿吉兆」のお酒ミニボトルをお土産にいただきました^^ 皆さん大喜びでした。

工場長の林さんの情熱的なガイドとセミナーで、通常の酒蔵見学では体験することのできないプラスアルファ以上の大満足の蔵見学をさせていただきました。本当に有難うございました!


酒蔵見学の後は、皆で楽しくそぞろ歩きをしながら最寄り駅のJR帯解駅へ向かい、ローカル電車でJR奈良駅へ移動。昼食会場の「ピッツェリア ルナノーヴァ」さんへ。 


[3] 昼食会 - 窯焼きピッツァと日本酒のペアリング・ランチ会


昼食会場の「ピッツェリア ルナノーヴァ」さんは、ミシュランガイドでビブグルマンを獲得された人気店。特別にお店を貸し切りにて、奈良豊澤酒造の林さんにもご同席いただいてのスペシャルなランチ会となりました。


お酒はソムリエであり酒匠である私が12種類をお選びして、前日にお店にお届け。ピッツァに日本酒を合わせるのは初体験の方が殆どで、面白い体験をしていただきました^^


ピッツァイオーロの赤井シェフが特別にランチコースをご用意くださいました。お酒好きな方のためにと考えて、おつまみ的に前菜盛り合わせ3皿から始まり、最後に丁寧に焼き上げたピッツァ3種をお出しくださいました。本当にとても美味しかったです^^ ご馳走様でした!


お持ち込みさせていただいた12種類のお酒はどれも素晴らしいものでしたが、特にお料理とマリアージュしたものを以下にご紹介します。


一杯目は乾杯に、スパークリング酒で夏季限定販売の「風の森 ALPHA 1 夏の夜空」を。この日はお天気がよく6月に入り暑かったので、爽やかにスッキリとした飲み心地でリフレッシュしていただきました。


前菜では、生ハム&イチジク、そして初めていただく生ハム&サツマイモには、EVオリーヴオイルとバルサミコ酢が添えられており、「豊祝 大吟醸」がとてもよく合いました。新鮮な完熟フルーツの吟醸アロマがあり、上品で薫り高く、円やかで丸みのある酸味とキレのある大吟醸酒は、フルーツの甘い香りと同調し、ハムの塩味が引き立ててくれます。透明感を与えるアルコール分が香りを引き出しながら膨らみ、口中リセットするという絶妙のペアリングです。


D.O.C.ピッツァ(トマト、モッツァレーラ、チェリートマト、バジル)には、「儀助 純米吟醸酒 無濾過生原酒 山田錦」がとても良く合います。熱々のトマトソースのピッツァには、良く冷えたフルーティ&ジューシーな純米吟醸酒がよく合います。日本酒はトマトやバジルと本当によく合います。儀助の山田錦は口中をリセットしてくれる生原酒由来の心地よい酸味とアルコールがあります。無濾過特有のお米感は、モチモチのピッツァ生地と咀嚼していく中で、穀物系の風味が融合していきます。完璧な日本酒とピッツァのペアリングです。


ゴルゴンゾーラと蜂蜜のピッツァには、「御代菊 純米吟醸酒 水酛仕込み」が合いました。特に水酛仕込みは、独特の熟成チーズ様の香りがあり、後口へと続く伸びやかで高い酸味が特徴的です。風味の強いゴルゴンゾーラの香りと複雑にマッチしながら、こってりした乳脂肪分をリセット。後口でミルキーな風味が「調和」するという、ワインでは起こりえないミルク的ハーモニーとなります。熱々ピッツァの温度でお酒の口中香が膨らみます。蜂蜜の濃厚な甘さと水酛由来の酸味が合わさると、甘酸っぱくなり第三の風味が生まれ、こちらも絶妙なマリアージュがみられました。


◆赤井シェフのスペシャリテである、熟成チーズとルッコラと生ハムのピッツァには、「長龍 吉野杉の樽酒」が驚くほどぴったりマリアージュしました。予想しなかった組み合わせで驚きです。杉樽の風味の生木や青竹のような香りと、ルッコラのハーベイシャスアロマが調和し、清涼感も増して、鼻から抜けるアフターフレーバーは白ワインのソーヴィニヨン・ブランと合わせた時の様に爽やかです。お酒に酸味と清涼感があるのでワインのように引き立てます。熟成チーズやトマトペーストの香味が際立ち、チーズとお酒の旨味が相乗し、素材もお酒も引き立て合う、本当に美味しい食べ合わせでした。ザ•ベストマッチでした!


◆デザートのピスタチオのパンナコッタには、「談山 貴醸酒」が感動的に合いました。この貴醸酒は特別に濃い蜂蜜の風味がありながらとてもきれいで、長い余韻の中で上品で複雑な香りに包まれます。過度な熟成香はなく、かすかにアクセント程度。穏やかですが輪郭や骨格をを与えている酸味があり、洗練感をも与えています。木村硝子のピッコログラスがお酒の複雑性を引き出しています。ボルドータイプのグラスだとストレートに甘さとピュアさを感じましたが、ボール部分に膨らみがあり、飲み口の口径が狭いものにはブルゴーニュ的に複雑性や酸味がじわっと引き出されていました。


お食事の最後には、更なるお楽しみがありました。 奈良豊澤酒造の林さんから「お酒の知識クイズ大会」が催され、勝ち抜かれたお二人がプレゼント酒を獲得されました^^


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日本酒の基礎知識を持った方々が集い、清酒の聖地を訪れ、蔵見学をできたこと、そして美味しいペアリング・ランチでご一緒できたことは、講師としてこの上ない幸せなことでございました。日本酒文化を学ぶ皆の情熱が集まり「化学反応」を起こして、素敵な時間が生まれたのだと思っております。


改めましてツアーへご参加くださった皆様、本当に有難うございました!!!